三枝成彰 新作オペラ 2013年世界初演!「KAMIKAZE~神風~」~第二次世界大戦でなくなった全世界の人々に捧げる~2013年1月、戦争の無意味さ、命の大切さを描くオペラの幕が開きます。
作曲:
三枝成彰
原案・原作:
堀 紘一
脚本:
福島敏朗
演出:
三枝健起
美術:
千住 博
指揮:
大友直人
神崎光司少尉:
ジョン・健・ヌッツォ
土田知子:
小川里美
木村寛少尉 :
大山大輔
木村愛子 :
小林沙羅
冨田トメ :
坂本 朱

今から25年ほど前に、私はオペラの作曲を自らのライフワークと定めました。そして2004年に太平洋戦争前後を背景にしたオペラ「Jr.バタフライ」、そして2008年に2.26事件で反乱分子として処刑された将校の妻をヒロインにしたモノオペラ「悲嘆」を書きました。二作とも、日本人である私が、この日本から世界に発信するオペラとして書いたものですが、もう一つ、私にはどうしても書きたいものがありました。それが、“特攻隊”だったのです。
そして、先行する二作と“特攻隊”を合わせて“昭和三部作”にしたいという思いが起こってまいりました。
私は自分で生涯の“作曲計画”を立てて、おおむねそのスケジュールどおりに作品を書いてきたのですが、“特攻隊”はそのいちばん最後、80歳を過ぎてから書く予定にしていました。そのことをあるとき堀紘一様に話したところ、「そこまであなたが生きているかどうかはわからない。ほんとうに書きたいなら、いま書くべきじゃないか」と強く諭されました。そのあたたかいご助言に勇気づけられたおかげで、この公演は現実のものとなりました。この作品にたいへんな思い入れをして下さり、原案・原作まで手がけて下さった堀様には、ただただ感謝申し上げるのみでございます。
太平洋戦争そして第二次世界大戦が終結してから70年近くが経過した現在、あの戦争を経験された人がだんだんと少なくなり、その記憶が日々遠いものになりつつあるのを感じ、その計画を大幅に早めて、いまこそ作品として残しておきたいという気持ちもありました。初演に至るまでに多くの協賛企業の皆様、関係団体の皆様、出演者、そしてスタッフの皆様よりご理解とご協力をいただきました。皆様へのこの感謝の気持ちは、いくら言葉を尽くしても表わしきれるものではございません。
 特攻隊、すなわち「特別攻撃隊」で出撃した人たちは、表向きは“志願”したことになっています。しかし、確実に死ぬことがわかっている作戦に、ほんとうに行きたいと思って行った人などいなかったであろうということが、特攻隊員の方たちの書き遺した文章などを読むとよくわかります。
 あの戦争は、いったい誰が引き起こしたのでしょうか。私は、当時の国民(大衆)が起こした戦争ではないかと思います。それを新聞やラジオなどのメディアがあおり、その勢いを軍部や政治家が止められなかったために、あの戦争が起きたのだと。当時の日本軍の上層部には、アメリカなどの大国を敵に回してほんとうに勝てると思っていた人は少なかったようです。しかし、5.15事件、2.26事件、そして経済不安などが徐々に指導者たちを追い詰めていきます。彼らは何より内乱が起こって国家体制が崩壊することを恐れました。そこでやりばのない大衆の怒りの矛先をそらすため、外国との戦争という目標を設定したのです。そしてその流れをメディアが言葉や映像をもって増幅させてしまいました。いったん大きなうねりが起これば、誰にも止めようがなかったのだと思います。
 私は現在の日本の社会には、あのころの日本に通じる“空気”が流れていると感じます。また新たなうねりが起こり、悲惨で無益な行いが繰り返されそうになったとき、日本人はそれを止めることができるのでしょうか?
 そうやって望まぬ死に追いやられた人たちが浮かばれず、命令した側の軍人たちが戦後も恩給を受けて生きながらえたことにも、憤りを感じます。招集されて亡くなったり心身ともに傷ついた方々にこそ、もっと大きな補償はなされるべきであろうと思います。
 彼らの多くは、自分が特攻出撃を拒否すれば、故郷に住む家族が世間から非国民としてつまはじきにされ、暮らしてゆけなくなることを恐れた挙げ句に、若い命を散らしました。1941年に陸軍が発令した“戦陣訓”にうたわれた「生きて虜囚の辱めを受けず」という一句に縛られ、自国の兵士が捕虜になるのはこの上ない意気地なし、捕虜になる敵の兵士も意気地なしというあの時代の空気によって、彼らは二度と帰ることのない任務へ就くことを強いられたのです。
日本においては何百万という人々が、「敵に負けることは大和民族にとって、命を投げ出すに足るほどの恥である」という、軍部の打ち立てたねじれたサムライ思想の犠牲となりました。すなわち「物資の不足は精神力で補え」という実情とかけ離れた考えであり、最前線に送られた兵士たちは、戦うに十分な弾薬も食糧も与えられず、80%が餓死したのです。
いかに国としての大義名分があろうとも、それは決して個人の人生と置き換えられるべきものではありません。いまを生きる若者たちと変わらない笑顔を持った彼らは何を思って飛び立ったのか? 彼らを含む、数えきれない犠牲を国民に強いたあの時代とは何だったのか? そして、その犠牲と引き換えに私たちが手に入れた平和とは何なのでしょうか?
 オペラ「KAMIKAZE―神風―」は、ひとつのラブストーリーとしても受け取っていただけるように作ったつもりでおります。自分たちにはどうしようもない運命がやがて訪れることがわかっていながら、それでもせいいっぱいの気持ちを伝えあう人物たちがそこにいます。物語の終わりに流れる、世界各国の言葉による平和への想いは、国を超えたものであると思います。この旋律は、2010年に書いた男声合唱曲「最後の手紙 The Last Message」から、その終わりの部分を引用したものです。この作品は、第二次世界大戦で亡くなった日本人を含む無名の兵士たちが故国に書き送った“最後の手紙”を歌詞に使わせていただいた作品でした。自分や自分の愛する人たちの未来に訪れるのは、どうか穏やかな日々であってほしい――そう一途に希望するのは、日本人のみならず、どの国の人でも同じでしょう。

1945年4月。学徒動員により、特攻隊の最前線である知覧飛行場で飛行士として従事する神崎少尉には、東京に知子という婚約者がいた。神崎に会いたい一心で命がけで知覧にたどり着いた知子は、そこではじめて神崎が特攻に志願していることを知る。神崎は知子との婚約を解消し、「自分のことは忘れ、新しい伴侶を見つけて幸せに生きてほしい」と置き手紙を残したまま特攻に飛び立とうとするが……

実在した特攻隊員とその婚約者をモデルに、理不尽な運命に翻弄された愛を描いた悲劇です。なぜ死を強要する「特攻」が行われたのか。命令に抗えなかった人々の思いは・・・・。

オペラ「KAMIKAZE-神風-」のDVDが9月18日にソニー・ミュージックジャパンインターナショナルから発売されます。
オペラ「KAMIKAZE-神風ー」 (全三幕四場)
「Jr.バタフライ」「悲嘆」に続くオペラ“昭和 三部作"の締めくくりとなる作品。2013年1月31日~2月3日にかけて東京文化会館で行われた初演の模様をライヴ収録したものです。

指揮:大友直人
合唱:六本木男声合唱団倶楽部
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
定価:5,985円(税込)
今回、このオペラの舞台の制作を進めると同時に、どなたにでも手にとっていただける映像ソフトという形にして永く残したいと考えておりました。その思いをソニー・ミュージックエンタテインメント会長の盛田昌夫様にお話したところ、快く製作をお引き受け下さました。今ここにあるDVDは、関わって下さったスタッフの皆様のお力の賜物です。本当に感謝しております。
 この作品が、永く皆様のご記憶に残ることを願ってやみません。
DVD発売に寄せて三枝成彰
この作品は、特攻隊員として戦死された穴澤利夫さんとその恋人、智恵子さんの実話を元に描いています。下記手紙は、穴澤利夫さんが実際に智恵子さん宛に書いた手紙です。

(前略)
婚約をしてあった男性として、散っていく男子として
女性であるあなたに少し言って征きたい。
 あなたの幸せを希う以外に何物もない
 徒に過去の小義に拘るなかれ あなたは過去に生きるのではない
 勇気をもって過去を忘れ、将来に新活面を見出すこと
 あなたは今後の一時一時の現実の中に生きるのだ
 穴澤は現実の世界にはもう存在しない
極めて抽象的に流れたかもしれぬが、
将来生起する具体的な場面場面に活かしてくれるよう
自分勝手な一方的な言葉ではないつもりである
純客観的な立場に立って言うのである
当地は既に桜も散り果てた 大好きな嫩葉の候が此処へは直きに訪れることだろう
今更何を言うかと自分でも考えるが、ちょっぴり欲を言ってみたい。

一、読みたい本 「万葉」「句集」「道程」「一点鐘」「故郷」
二、観たい画 ラファエル「聖母子像」芳崖「悲母観音」
三、智恵子 会いたい、話したい、無性に

今後は明るく朗らかに
自分も負けずに 朗らかに笑って征く

利夫
智恵子様
公演日・
時間
2013年1月31日(木)18:30開場 19:00開演
2013年2月 2日(土)13:30開場 14:00開演
2013年2月 3日(日)13:30開場 14:00開演
会 場 東京文化会館
この録音はシンセサイザーによるデモ音であり、本番の歌手による歌唱ではありません。

三枝成彰は作曲するにあたり、構成台本を担当する堀紘一氏と大量の資料を読み対話を重ねて、その成果を、まず書物にまとめることを、第一歩としました。
「志願」か、「強制」か。「英霊」か、「犬死に」か。オペラ『特攻』の上演に取り組む2人が、先の戦争で亡くなった人たちの「思い」をいかに引き継ぐかを語り合った白熱対談。
「特攻とは何だったのか~日本人として忘れてはいけないこと」
三枝 成彰 堀 紘一 (著)
出版社:PHP研究所
出版社:発売日:2009年07月17日
価格: ¥ 1,575
三枝成彰 Shigeaki Saegusa
作曲家。長年構想を温めていた本作品「KAMIKAZE~神風~」は、「Jr.バタフライ」「悲嘆」に続く“昭和三部作”の締めくくりとなる。
堀 紘一 Koichi Hori
ドリームインキュベータ代表取締役会長。20代での渡米体験を機に「特攻」の研究を重ねてきた。原案・原作を担当した本作品「KAMIKAZE-神風-」には、「特攻とは何だったのか」も織り込まれている。